2024年の本屋大賞を受賞し、デビュー作にして文学賞15冠という異例の快挙を成し遂げた宮島未奈さんの大ヒット小説『成瀬は天下を取りにいく』。発売直後から数多くのメディアや書店の店頭で絶賛の声が鳴り止まない本作ですが、実際にページをめくってみると、そのエネルギーの塊のような面白さとみずみずしさに圧倒され、時間を忘れて一気読みしてしまいました。
現代はSNSの普及もあり、どうしても周囲の目や「空気を読むこと」に重きが置かれがちです。そんな日々にちょっぴり疲れている現代人にこそ読んでほしい、最高に爽快で、どこか胸が熱くなる青春エンターテインメント小説です。今回は、本作のあらすじや、主人公・成瀬あかりの底知れない魅力、そしてなぜこれほどまでに多くの読者を惹きつけるのか、その理由を深く掘り下げてレビューしていきます。
1. コロナ禍の夏、消えゆくデパートに捧げた青春の幕開け
物語の舞台は、滋賀県大津市。時は2020年の夏、まさにコロナ禍により日常が大きく制限されていた真っ只中です。中学2年生の夏休みを前に、半世紀にわたり地域のシンボルとして愛されてきた「西武大津店」が閉店することを知った主人公・成瀬あかりは、幼なじみの島崎みゆきにこう告げます。
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」
成瀬の目的は、閉店までの1ヶ月間、毎日ローカル番組の生中継に映り込むこと。周囲のクラスメイトが呆れるのを余所目に、成瀬は毎日「独自のライオンズTシャツ」を着て西武大津店へ通い詰めます。この一見無謀とも思える挑戦を皮切りに、幼なじみとお笑いコンビ「ゼゼカラ」を結成してM-1グランプリに出場したり、競技かるたに没頭したりと、成瀬の突拍子もない、けれど常に真剣な挑戦の日々が幕を開けます。
2. 承認欲求ゼロ!主人公・成瀬あかりの「ブレない」魅力
本作の最大の推進力であり、読者が一瞬にして虜になってしまう理由、それはひとえに主人公・成瀬あかりの規格外のキャラクター造形にあります。
彼女の行動や思考回路は、およそ「普通の中高生」の枠には収まりません。小学校の卒業文集に「200歳まで生きる」と本気で書き、高校の入学式には、髪の伸びるスピードを測る実験のために「坊主頭」で現れます。一見すると周囲を振り回す変人のように見えるかもしれません。しかし、読み進めるうちに、彼女の行動には一切の「奇をてらう気持ち」がないことに気づかされます。
成瀬の根底にあるのは、「自分がやりたいと思ったことを、他人の目を一切気にせず全力でやり切る」という、純度100%の強靭な意志です。そこにSNS的な承認欲求や、他人から良く見られたいという邪念は1ミリも存在しません。この痛快なまでの自己肯定感の高さと、同調圧力に屈しないブレない姿勢が、私たちの心を強く揺さぶるのです。
3. 群像劇としての面白さ:周囲の視点が成瀬を輝かせる
本作の非常に優れた点は、この物語が成瀬自身の視点(一人称)では描かれていないという構成の巧みさにあります。物語は、彼女の突拍子もない行動に巻き込まれる幼なじみの島崎をはじめ、同じ高校の同級生、かるた大会で出会った他校の男子生徒など、「成瀬の周りにいる人々」の視点による連作短編集として進んでいきます。
読者は最初、成瀬を少し遠巻きに見ている登場人物たちと同じ目線で物語に入り込みます。「変わった子だな」「一体何を考えているんだろう」という戸惑いからスタートするのです。しかし、成瀬の裏表のない誠実さや、一度口にした約束を必ず守る義理堅さ、そして何より目標に向かって真っすぐに突き進む背中を見ているうちに、登場人物たちと同様に、私たち読者も「いつの間にか成瀬を全力で応援し、彼女の存在が愛おしくてたまらなくなっている」というマジックにかかります。
成瀬という強烈な光に照らされることで、周囲のキャラクターたちの繊細な悩みや思春期特有の葛藤、そして彼ら自身の成長もまた鮮やかに浮かび上がってくる見事な群像劇となっています。
4. 滋賀・大津への深い愛が生む、圧倒的なリアリティ
本作の魅力を語る上で絶対に欠かせないのが、徹底して細部まで描かれる「滋賀県大津市」のリアルな風景とご当地描写です。
冒頭の舞台となる西武大津店(2020年に実際に閉店)をはじめ、膳所(ぜぜ)駅の改札、琵琶湖を優雅に航行する外輪船「ミシガン」、近江神宮、そして地元民に愛されるローカルフードの数々。地域に根差した具体的な地名や施設が次々と登場することで、ファンタジーのようにも思える成瀬の行動が、地続きの現実として立ち上がってきます。
地方都市ならではのゆったりとした空気感、地元の人々が共有する特有の愛着や少しの哀愁が物語に圧倒的な深みを与えており、読み終わる頃には「大津に行って、成瀬が歩いた街の空気を吸ってみたい」と思わされる、極上の「ご当地小説」としても楽しむことができます。
5. 現代を生きる私たちに「突破力」をくれる一冊(まとめ)
『成瀬は天下を取りにいく』は、単に「変わった女の子の面白い日常」を描いたコメディ作品ではありません。大人になるにつれて、私たちが社会の波に揉まれる中でどこかに置き忘れてきてしまった「自分の人生の主導権を自分で握る」という最も大切な心構えを、成瀬あかりという一人の少女が鮮やかに体現してくれている作品です。
「周りにどう思われるか不安」「失敗したら格好悪い」――そんな見えないブレーキを日々踏みがちな私たちの背中を、成瀬は気の利いた言葉ではなく、ただその圧倒的で愚直な行動力をもって、ぽんと力強く押してくれます。
- 笑えて、泣けて、最高の元気がもらえる上質な小説を探している方
- 最近、自分の本当にやりたいことを見失いかけている方
- 「これぞ本屋大賞!」と唸る、抜群に面白いエンタメ作品を読みたい方
そんなすべての方に、自信を持っておすすめできる傑作です。ぜひ、成瀬あかりが巻き起こす爽快な旋風に巻き込まれてみてください。読了後、あなたの明日からの景色が、ほんの少しだけ、風通し良く頼もしいものに変わっているはずです。


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